大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)5104号 判決
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〔争点〕原告と被告ら外一名との間に締結された報酬契約は、(1) 右三名は連帯して原告に対し、(イ)着手料及び書類作成費三名分金四一万一〇〇〇円(契約書第一条)(ロ)本件成功と同時に謝金として訴訟物の価額より軽減した金額の二割額を支払うこと(同第二条) (2) 本件において成功とは勝訴の判決があつたとき又は和解示談もしくは調停が成立したときその他依頼の目的を達したときとすること(同第三条) (3) 原告の承諾を得ないで和解抛棄認諾取下をなしたりもしくは被告らの都合をもつて原告に対する委任解除などしないこと。もしこれに違反したときは委任事務の程度如何にかかわらず、成功とみなし、前記成功謝金同額を即時連帯して支払うこと(同第五条)等を内容とするものであつた。
〔判決理由〕一、被告らが、訴外鈴木由右衛門とともに、昭和三五年八月弁護士である原告に対し、訴外岩見忠から提起された当庁昭和三五年(ワ)第二、五四九号実用新案権侵害禁止ならびに損害賠償請求事件の応訴を依頼し、同年一〇月一三日、原告とその主張のような報酬契約を締結したこと、原告に対し同日までに着手料金四一万一、〇〇〇円の内金二〇万円を支払つたこと、そして原告が右依頼にもとづきその主張のように右事件の第一回ないし第五回の各口頭弁論期日に出頭して被告らのために応訴したこと、ところが、岩見忠が、昭和三六年五月三一日、右事件の訴を取下げるに至つたことは、いずれも当事者間に争いがない。
二、<省略>
三、そこで先づ着手料の請求の当否について考える。<証拠>によれば、弁護士が訴訟事件を受任した場合においては事実の調査や学説判例の研究及び関係の資料の蒐集など諸般の準備を必要とする外事件の終了に至るまで多くの労力と費用を要するので、受任とともに速に着手料の名目で相当額の金銭を受領するのが一般であり、右金員は事件の成功不成功と関係なく、また事件が取下などにより予想外に簡単に終了した場合にも返還を要しない旨の慣行が存在することが認められる。ところで本件着手料は訴額の一割(金四一一、〇〇〇円)という金額からみて一般に授受されている着手料の額に比較して高額であることは否定できないが、原告本人尋問の結果によれば本件約定の着手料金四一一、〇〇〇円も前記慣行による着手料として授受を約束されたものであることが認められるから、被告らは前記訴訟が相手方の訴取下により予想外に簡単に終了したことや右金額が高額であることを理由としてその支払を拒むことはできないものというべきである。そうすると、被告らは連帯して原告に対し、着手料金四一万一、〇〇〇円の残金二一万一、〇〇〇円およびこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和三八年一二月一〇日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務のあることは明らかである。
四、そこで進んで、原告の成功報酬金の請求の当否について判断する。
(1) 先づ本件報酬契約にいう成功とはその契約の性質並びにその決められた金額から考え主として受任者たる原告の努力により委任の目的が達せられた場合を指すものと解すべきところ、原告は前記訴訟事件について、原告は前記訴訟事件について、原告が被告らの訴訟代理人として極力応訴したことにより、岩見忠が訴を取下げるに至つたものと主張し、被告らはこれを争うので、右訴の取下がはたして原告の努力により招来されたものであるかどうかについて検討する。
岩見忠は、被告らに対し提起した前記訴訟事件と前後して、同訴訟事件において問題になつているのと同一の登録実用新案権にもとづき、東京都所在の森川工業株式会社、名古屋市在住の丹下一男らに金網製ざるの製造販売禁止の仮処分をなしたが、右森川工業株式会社から右仮処分決定に対し異議の申立がなされ、東京地方裁判所昭和三五年(モ)第一一五五号仮処分異議事件として係属していたこと、そして右事件につき右当事者間に和解が成立したことは当事者間に争いがない。そして<証拠>を総合すると、原告が被告らから受任した前記訴訟事件につき定められた五回の各口頭弁論においてなした訴訟行為は、第二回期日において岩見忠の請求の趣旨に対する答弁のみを記載した答弁書の陳述、第三回期日において請求原因に対する答弁を記載した答弁書の陳述と第四回期日においてなした証人等の証拠申請にとどまり、その余の期日はいずれも延期され、昭和三六年三月一三日の第五回の期日までには岩見忠申請の証人二名の証拠調期日が次回の同年六月五日と定められているのみで、未だ被告らの製造販売する金網ざるが如何なる点で岩見忠の実用新案権に抵触するか否かの、具体的な争点も明確になつている段階になかつたところ、岩見忠は前記のように同一の登録実用新案権にもとづいて係争中であつた相手方のうち、最も資力があり、係争の中心であつた森川工業株式会社との間に、昭和三六年五月八日、前記仮処分事件に関して、右実用新案権が金網業界にとつて非常に重要な権利内容を有し金網ざるを製造するには是非とも右実用新案権を実施する必要があり、法律上の争いは経済的見地から見て得策でないとの理由から、大阪、名古屋等の金網業界の役員が仲介に尽力し、訴訟の勝敗とは関係なく、右実用新案権を業界内でどのように利用するかの観点から話合いが進められた結果、右権利を金網業者に平等に実施させて、その業者に実施料を支払わせ、その実施料を当事者間に分配すること等を内容とする。示談が成立するに至つたため、被告らに対する訴訟事件もこの際円満に解決しようとの機運が高まり、岩見忠と被告らの間にも、右示談の内容と同一の話合いがまとまり、その話合いの条件の一として岩見忠は前記の訴を取下げるに至つたことが認められる。
そうすると、岩見忠のなした右訴の取下は、原告が被告らのために応訴して提出した答弁書その他の準備書面が効を奏したことによるものではなく、原告の右委任事務処理の結果とは関係のない第三者の仲介により岩見忠と被告らとの間に和解が成立したことによるものであるから、原告の努力により招来された結果とはいえない。
よつて原告の右主張は理由がない。
(2) 次に、原告は、被告らは原告に無断で前記訴訟事件につき岩見忠と和解をなしているから原告の受任した事件は成功とみなされると主張する。ところで、被告等が岩見忠と前記和解をなすにつき原告の承諾を得ていないことは被告等も明らかに争わないところであるが本件報酬契約第五条にいう「原告の承諾を得ないで和解、拗棄、認諾、取下をなし又は他人に代理を委任しもしくは被告らの都合をもつて原告に対する委任解除しない」旨の約定は、いわゆる成功報酬契約が条件付権利であることから、委任者たる者のことさらに報酬の支払を免れようとして故意に条件成就を妨げるような信義則に反する行為により受任者の蒙る不当な不利益を妨止するにあると解されるから、被告等が岩見との和解につき原告の承諾を得なかつたという手落はあつても、被告等に悪意がなく若し被告らにおいて事前に原告の承諾を求めておれば原告も当然これに同意したであろうと思われるような場合にあつては、原告は右条項のあることを理由に被告に対し成功報酬を請求することはできないものと解すべきところ、被告らが岩見忠と直接和解したいきさつは、訴訟が未だ証拠調にも入らない段階において金網業界全体の役員が関与して、訴訟の勝敗とは別に、いわば業界全体の利益のために話合いが進められた結果なされた和解であること前記認定のとおり(この業界の役員の中には名古屋方面の業界代表として被告会社の役員が加わつていたことは認められるが、これは決して原告を出し抜いて和解するという悪意に出でたものではなく、金網業界の一員として、業界全体の動向に従つたに過ぎず、咎むべきことがらではない。)であり、若し被告らが事前に原告に事情を話しておれば原告も快くこれに同意したものと思われるのであつて、被告らにおいてことさら原告に対する成功報酬金の支払を免れるために岩見忠と和解をなしたものとは認められない。
そうすると、原告の前記契約書第五条を理由とする成功報酬金の請求も理由がないといわざるを得ない。
(3) 以上の理由により原告は本件報酬契約の第二条によつても第五条によつても被告らに対し訴額の二割の成功報酬を請求することはできないわけであるが、さきに述べたように原告は受任した事件につき数回口頭弁論期日に出頭しその作成に係る答弁書や準備書面を陳述し極めて誠実に委任事件につき応訴活動をしたのであり、たまたま右事件が主として原告の右努力によつて解決したものではないにしても、原告の右努力が事件の解決に何等かの寄与をしていることは否定できないから、かかる場合原告は何等の報酬金も請求できないものであるか否かは別に考慮する必要がある。当裁判所は右第二条の報酬の定めは直接には主として原告の努力により成功した場合の金額を定めたものと解することさきに述べた通りであるが、本件契約上右の場合に該当しない限り全然報酬金を請求できない旨の明文のないことその他契約全体の趣旨から考えれば、同条は右の場合に該当しない場合においても、事件の成功につき原告において何等かの寄与するところがあつた場合には、右約定の金額の範囲内において原告の努力に対しそれに相当する金額の報酬を支払う旨の約定が暗黙のうちに含まれているものと解するものである。そしてさきに認定した受任事件の性質内容、その終了に至るまでの経過、着手料の額、原告の訴訟活動及びそれが事件の解決に寄与した程度その他本件に顕われた一切の事情を考慮し、被告らが原告に支払うべき報酬額は訴額の五分に相当する金二〇五、五〇〇円を相当と認める。
五、よつて、原告の本訴請求中、被告らに対し連帯して着手料の残額金二一万一、〇〇〇円の報酬金のうち金二〇万五、五〇〇円の合計金四一万、六五〇〇円およびこれに対する昭和三八年一二月一〇日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求める部分は正当であるから認容し、その余の請求は失当として棄却し、<中略>主文のとおり判決する。(谷野英俊 井野口勤 平井重信)